がんになった あなた と わたしへ

がんを経験したわたしの記憶 そしてこれから。

髪がなくなる そのときの気持ち

抗がん剤により
いよいよ
髪が抜けていった頃

私は、なるべ悲しくならないように

「これは大型犬の毛の生え替わりの時期みたいなものだ」

と自分にナゾの言い聞かせをして、

せっせと抜けた毛の始末をしていました。


落ち込まないように
少しでも自分を保っておくために

感情にそっとフタをする。


きっとそれは
じぶんの心を守る
防御策だったんだと思います。

 

あんなにも
脱け続けゐし
髪たちは
悲しかつたらう
生きたまま脱けて


『たったこれだけの家族  河野裕子エッセイ・コレクション』
河野 裕子 著 中央公論社

 

最近
この句に出逢い、

あー、ほんとはあの時悲しかったよねー。
たっぷりツヤツヤした髪が毎日抜けて(T ^ T)


あの時の気持ちと
はじめて向き合った気がしました。

 

手をのベて
あなたとあなたに
触れたきに
息が足りない
この世の息が


『蝉声』
河野 裕子 著 青磁

 

いままで
短歌というものには
まったく興味がなく、


河野 裕子さんという
有名な歌人
知りさえしませんでしたが、


胸をつかまれるような
短歌の数々に
出逢っているところです。


生きてゆく
とことんまでを
生き抜いて
それから先は
君に任せる


『たったこれだけの家族  河野裕子エッセイ・コレクション』
河野 裕子 著 中央公論社


こう言い残せるように

生きぬきたい。