がんになった あなた と わたしへ

がんを経験したわたしの記憶 そしてこれから。

ウィッグのこと

今日は半年に一回の術後検診の結果の出る日です。

乳がんが見つかった時、髪が抜けたらどうしたらいいんだろう、ウィッグってどんなのだろうと思っていたことを、待合室の椅子に座って思い出しています。

何も知らなかったわたしは、抜け始めの時期はベレー帽をかぶる→ほとんど抜けたらウィッグにする、となぜか2段階チェンジを想像していたのですが、実際は頭頂部だけではなく横や後頭部も等しく抜けていくので、ベレー帽はその時日の目をみませんでした。

 

ウィッグは自分自身といっても過言ではないような存在になるので、納得いくまで試着をしてお店の人に質問をして、家族にも見てもらって大事に大事に選びました。その過程は結構楽しくていい思い出です。

 

せっかくウィッグ生活になるのだから、メインウィッグのほかに、髪の長さがまったく違うサブウィッグを用意して、オフの日の気分転換に使っていました。

 

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くもをさがす 

作家の西加奈子乳がんになった時「すごくオープンで、私が前例になるからみんな見といてや!って感じ」だったらしい。それはテレビ番組のオープニングで、そこでテレビを消しました。

 

それは、「私を参考にして、みんな見て!」なんてわたしは到底思えなかったし、今も積極的にがんのことを話したりはしない。それに治療をしていた時のことだけは、そこだけ別の人生みたいに、今でも人生の中でつながっていないから。

 

ただ、やっぱり気になったので西加奈子の「くもをさがす」を読んだところ、この本の中の西加奈子さんは、確かにわたしにもつながっていました。

 

 

私は、弱い。

日々そうやって自覚することで、自分の輪郭がシンプルになった。心細かったが、同時に清々しかった。

中略

「弱いなぁ、自分」

と、思った。もちろん情けなかったが、その情けなさを受け入れると、何かに触れるような気がした。自分がこの体で、圧倒的な弱さと共に生きていることに、目を見張った。

 

「くもをさがす」西 加奈子 著 河出書房新社 2023年

 

今でも、がんになったことを恥部のように抱えているわたしですが、それごと抱えて前に進もうと勇気が湧いてきます。

 

 

みじめではない

と思いたい。

だのにひとは

みじめさのなかではじめて生きる。

 

ー安永稔和「存在のための歌」

 

「くもをさがす」西 加奈子 著 河出書房新社 2023年

 

これ、めっちゃわかる!!

病気だけじゃなくて、人間関係とか加齢とかいろんな地味~な場面でぷちみじめを感じることがあります。

でもそんなとき、人の心情をおもんばかったり、自分のことを思いやったり、草木や四季の移り変わりに癒されたりします。

 

みじめさを不幸としない。

生きてるんだな~、わたし。

お父さんは認知症

父が初期のアルツハイマーとの診断を受けました。

 

わたしは、頭では理解できるのに心がついていきません。少なからずのショックと、この先のぼんやりとした不安。

 

子どもの頃の祖母の認知症の進行と重なってみえてきます。

「おばあちゃん、だいぶ分からなくなってるね」と親戚から言われても、祖母と一緒に住む私たちは「昔からこんなだったよね」とか「耳が遠いだけ」。

 

そんなとき、「マンガ ぼけ日和」を読みました。まさしくあの頃の私たちのように、認められない家族や認知症の前兆として怒りっぽくなったおじいちゃんが出てきます。

「あーそういことだったんだね」と納得したり、ほろりときたり。

 

そのなかで、「今日は何月何日!?」と試すようなことはしないでください、という言葉にはハッとしました。これ、なんでやっちゃうんでしょうね。

今日は分かるかもしれない、と淡い期待を込めて、または不安を払拭したくて言ってしまうのかな。

 

父の認知症が進行する前にこの本を読めて本当に良かったと思います。

これからどんなふうになっていくのか、コレを読めば対策バッチリ!なわけないけど、ことあるごとに手にとって教えてもらったり、慰められたりしていくことになりそうです。

「エンジェルフライト」を読む

米倉 涼子主演のPrime VIdeo「エンジェル・フライト」の原作本を読みました。

本はノンフィクション。

社長の木村 利恵さんはじめ、エアハース・インターナショナルで働く人々の熱く静かな情熱。過酷な環境でも決して手を抜かない、ひとつひとつの丁寧な作業。

著者 佐々涼子は自身の人生の中の「弔い」を見つめ、こうつづります。

 

エアハースの行っている遺体を搬送し家族のもとへ届ける作業は、悲嘆に遺族を向き合わせる行為だ。弔いは亡き人を蘇らせたりしない。悲しみを小さくしたりもしない。かえって取り返しのつかない喪失に気づかせ、悲しみを深くするかもしれない。だが、悲しみぬかなければ悲嘆はその人を捉えていつまでも放さない。私は心のどこかで知っていたのだと思う。国際霊柩送還の仕事が人を悲嘆に向き合わせることにより、その人を救う仕事なのだと。『エンジェル・フライト 国際霊感送還士』佐々 涼子著 集英社 2014年

 

 

弔いは、生き続ける家族のためにこそあるのかもしれません。

今まで、自分が死んだら散骨してもらいたいなーとすっごく気軽に考えていましたが、ほんとにそれでいいのか・・・。

 

そして人生のいろいろな場面で訪れる悲しみも、悲しみ尽くしたら、這い上がる!!!

がんになってからの人との関係

抗がん剤治療の副作用で体の具合が悪い時期やウィッグが気になる時期。人と会うのをなるべく避けていた時期もありました。

そのあと、オープンに周りの人にがんになったことを話すようになりましたが、そのうち不幸自慢をしているようで、それはそれで自分が嫌になってきたり。

一方で、ウィッグを外してはげ頭を見せられる仲間の存在にも気付いた、大事な時でもありました。

 

 

 

「ボクもたまにはがんになる」

脚本家の三谷幸喜さんの「ボクもたまにはがんになる」を読みました。

2015年、大河ドラマ真田丸」の執筆時に前立腺がんを患う。

がん保険のCMにも出演されていますね。

 

主治医の穎川 晋先生との対談集

『ボクもたまにはがんになる』2021年 幻冬舎発行

 

 

前立腺がんの治療法の選択の場合、単に体にメスを入れるのがイヤ、という以外に勃起や射精という男性機能、「男の象徴」のようなものがなくなってしまうという恐怖心やプライドも考慮しないといけません。特に最近では、命や健康よりもプライドが先に来るケースも多いように思います。(穎川先生)

 

『ボクもたまにはがんになる』2021年 幻冬舎 より

 

前立腺。自分にはないから未知の世界ではあるけれど、乳がんや子宮がんと共通する「性(聖)の領域」ですね

 

それこそ僕のようにがんになるとか、検査に引っかかるとかでもない限り、前立腺という言葉に触れることがあまりない。風俗系で「前立腺マッサージ」みたいな言葉はあるけど、あれ、前立腺と関係ないですしね。男性にとっては、勃起や射精とか性機能とか「男のプライド」にかかわる重要なものなのに、ちょっとないがしろにされている気がします。(三谷氏)

 

『ボクもたまにはがんになる』2021年 幻冬舎 より

 

なるほど。その現状悲しくなってきました。

 

そもそも排便排尿というのは小さいときからきちっと躾をされるじゃないですか。ある意味、人間の尊厳にかかわるんです。ですからそこがいまくいかないと、一気に自信が崩壊してしまいます。(穎川先生)

 

『ボクもたまにはがんになる』2021年 幻冬舎 より

 

自分もいつなんどき、排便(排尿)困難になったり、世話をする側になったりしてもおかしくないのに、そういうことは考えたくないって思ってしまいます。

 

一方で、介護されるときに備えて脱毛する「介護脱毛」とか、先々の「しものこと」を考えて行動する人もいますね。

 

がん年齢、というものがあります。40歳~60歳。中年から少し上がったあたりです。階段でいうと、そこに必ず段差がありますよ、ということです。自分の体は自分ひとりのものじゃないと意識を高くもって、特にその時期を大事に過ごしていただきたいと思っています。

(穎川先生)

 

『ボクもたまにはがんになる』2021年 幻冬舎 より

 

更年期症状やミドルエイジクライシスとか。

そうですね。私はいま階段をのぼっています。

 

昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の「第35回 苦い盃(さかずき)」の中で

老いた巫女が源実朝にこう諭すシーンがありました。

 

これだけは言っておくよ。お前の悩みはどんなものであっても、それはお前ひとりの悩みではない。

はーるか昔から同じことで悩んできた者がいることを忘れるな。

この先もお前と同じことで悩む者がいることを忘れるな。

悩みというものはそういうものじゃ。

お前ひとりではないんじゃ。

決して。

乳がん手術後のマンモグラフィー

手術から2年が経ちました。 

6ヶ月に一度の検診に行ってきました。

血液検査とCT、そしてマンモグラフィー

去年、手術後はじめてのマンモを受けたときは、あまりの痛さに気絶するかと思いましたが、今年は少しだけ楽だったような気がします。いや、去年はビビりすぎて精神的に痛みが増してただけかもしれないけど(「傷のところをはさむの!?ぎょえー、やめて〜!」)。

 

総合病院の入り口には、

生まれたての赤ちゃんを抱く人。

車イスに乗っている人。

大人用のオムツのパックと、着替えが入っていそうな大きな袋を持って急ぐ人。

ストレッチャーに寝て介護用タクシーに乗せられる人。

ライフステージの縮図のようだな、と眺めていました。